4月例会延期のお知らせ

【お知らせ】

 

「歴史と人間」研究会では、来る2020年4月25日(土)14時より上林朋広氏による研究報告を予定しておりました。

 

しかし、新型肺炎による今般の状況を鑑み、上記例会は延期することを決定いたしました。

 

今後の予定につきましては、決まり次第告知いたします。

 

ご理解賜りますようお願い申し上げます。

 

皆様におかれましても、お体に気を付けてお過ごしください。

 

 

 


第270回「歴史と人間」研究会

◆日時: 2020年4月25日(土)14時より

 

 *新型コロナウィルスの影響により、直前に例会を中止・延期する可能性があります。

  ご迷惑をおかけしますが、ご承知おき願います。

 

◆場所: 一橋大学国立東キャンパス 第3研究館 3階 共用会議室

     キャンパス地図39番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

 

◆報告: 上林 朋広氏 

   (一橋大学大学院社会学研究科ジュニア・フェロー(特任講師)、東京外国語大学AA研ジュニア・フェロー)

 

◆タイトル: 創られた「伝統」の浸透:ズールー語教科書の出版と歴史意識」

 

◆要旨:

 本報告は、1930年から50年にかけての南アフリカ連邦ナタール州(現クワズールー・ナタール州)のアフリカ人教育におけるズールー文学・歴史教育を分析することで、同期間のズールー・ナショナリズムの内容とその広がりを明らかにする。具体的には、学校教育で使用されたズールー語の教科書と、シラバス及び試験問題など教科書の読み方を規定したと考えられる史料を用いることで、主任原住民教育視学官であったダニエル・マック・マルコムを中心としたナタール州教育行政と保守的なズールー知識人の協力のもとで生み出されたズールー語の歴史叙述が、人種隔離政策と親和性を持つようにズールー・ナショナリズムを特定の形態へと導こうとする試みであったと主張する。

 20世紀前半におけるズールー語の歴史叙述の果たした役割については大きく分けて二つの立場がある。一つは、ズールー・エスニシティを強調した保守的知識人とアフリカ人統治に関わった白人行政官の協力体制に焦点を当て、彼らが人種隔離政策を正当化したという側面を強調する立場である。他方は、ズールー人の歴史叙述、特に歴史小説を分析対象として、植民地支配への抵抗の可能性を見出す立場である。前者の観点を打ち出したマークスの論文(Marks 1989)は、ナタール州のアフリカ人教員団体ズールー・ソサエティが、家父長的で植民地支配に融和的なズールー・エスニシティ観を提示したと主張する。しかし、その分析の射程は、アフリカ人統治行政とアフリカ人知識人の協力関係を対象とするにとどまっており、学校教育で使用された具体的なテキストを対象としているわけではない。一方で、文学研究者ピーターソン(Peterson 2012)に代表される後者の立場は、テキストの内容にのみ焦点を当て、それが学校教育で学生に特定の価値観を教えるために利用されたという側面を等閑視してきた。上記の研究動向に対して、本報告では、ズールー人の歴史について読み・書くという行為が、その共同体のあるべき姿を議論する公共圏を形成してきたというショニパ・モコエナの主張(Mokoena, 2009)を援用しつつ、ズールー語による歴史叙述への教育行政の介入の影響を分析する。具体的には、ズールー・ソサエティの史料、特に同協会の事務局長を務めたチャールズ・ムパンザとマルコムの間で交わされた書簡を検討することを通して、教室において学生がズールー語で執筆された教科書を読むという行為に、特定の社会的規範を教え込む役割が期待されていたことを明らかにする。

 

参考文献

Marks, Shula. 1989. “Patriotism, Patriarchy and Purity: Natal and the Politics of Zulu Ethnic Consciousness.” In The Creation of Tribalism in Southern Africa, edited by Leroy Vail, 215–40. Berkeley: University of California Press.

Mokoena, Hlonipha. 2009. “An Assembly of Readers: Magema Fuze and His Ilanga Lase Natal Readers.” Journal of Southern African Studies 35 (3): 595–607.

Peterson, Bhekizizwe. 2012. “Black Writers and the Historical Novel: 1907-1948.” In The Cambridge History of South African Literature, edited by David Attwell and Derek Attridge, African Edition, 291–307. Cambridge: Cambridge University Press.

 


「歴史と人間」研究会 2019年度シンポジウム(第270回例会)のお知らせ

L・ダヴィドフ/C・ホール著『家族の命運』(名古屋大学出版会、2019年)を読む

◆日時:2019年12月15日(日)14:00〜17:30(13:30開場)
◆会場: 一橋大学東キャンパス 第3研究館3階 研究会議室
 キャンパス地図39番 https://nam11.safelinks.protection.outlook.com/?url=http%3A%2F%2Fwww.hit-u.ac.jp%2Fguide%2Fcampus%2Fcampus%2Findex.html&data=02%7C01%7C%7C78a25b9d6a0c40aa272a08d75648b7ea%7C84df9e7fe9f640afb435aaaaaaaaaaaa%7C1%7C0%7C637072742630437032&sdata=bsjrVYVPO6DgGZRVHWJ2%2BsN5YsOXhIaFGffxrHRXmWM%3D&reserved=0
 
◆プログラム:
趣旨説明(14:00〜14:15)司会:森村敏己(一橋大学)
本書の意義と位置づけについて(14:15-14:35)長谷川貴彦(北海道大学、訳者のひとり)
コメント1(14:35-15:05)竹内敬子(成蹊大学)
コメント2(15:05-15:35)小野塚知二(東京大学)
休憩(15:35-15:50)
訳者3名によるリプライ(15:50-16:20)山口みどり(大東文化大学)/梅垣千尋(青山学院女子短期大学)/長谷川貴彦
自由討論(16:20-17:30)

◆趣旨文
 2019年の夏、レオノーア・ダヴィドフ/キャサリン・ホール著『家族の命運──イングランド中産階級の男と女 1780〜1850』(山口みどり/梅垣千尋/長谷川貴彦訳、名古屋大学出版会)が出版されました。原著のFamily Fortunesは、1987年に初版が刊行されて以来、「ジェンダー史」の古典的名著として、長らく邦訳が待ち望まれてきた作品です。今年の「歴史と人間」シンポジウムは、この翻訳書を取り上げることにしました。
 『家族の命運』の中心的主張は、18世紀末から19世紀前半にかけてのイングランドで、宗教、経済、政治、地域などの面でそれまで多様であった中間層が、家庭を重視するイデオロギーを共有するなか、ひとつの階級意識をもつようになったというものです。イギリス史研究では古典的ともいえる産業革命期の階級形成というテーマを取り上げながら、日常生活の分析にまで及ぶ社会文化史的アプローチを採用し、またジェンダー概念を中心に据えることによって、本書は女性史というジャンルにとどまらず、歴史学の新境地を開拓した作品といえるでしょう。
 シンポジウムでは、まず訳者のひとりである長谷川氏から、『家族の命運』の史学史的な位置づけについて説明していただき、その後、ジェンダー史の立場から竹内氏、社会経済史の立場から小野塚氏にコメントをいただきます。
 『家族の命運』をひとつの手がかりに、階級、家族、ジェンダーなどについて、自由に議論するシンポジウムになることを期待しております。この本をお持ちでない方も、お読みになっていない方も、どうぞお気軽にご参加ください。

※シンポジウム後、恒例の忘年会を開催いたします。
会場 DAIMO(一橋大学北側徒歩2分)、時間:18:00~、会費:院生2000円、それ以外の方は参加人数により傾斜配分とさせていただきますが、評判の良いリーズナブルなお店です。
 

第269回「歴史と人間」研究会

日時: 2019年10月26日(土)14時より 

場所: 一橋大学国立東キャンパス 第3研究館 1階 多目的室

(*会場がふだんと異なりますのでご注意ください。)

キャンパス地図39番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

 

報告: 大下 理世

タイトル: グスタフ・W・ハイネマン大統領と民主主義の伝統

      ―「成熟した市民」の育成と歴史上の民衆運動への積極的な評価一

要旨: 

本報告では、旧西ドイツ(連邦共和国ドイツ)の歴史の一つの転換期と位置づけられるヴィリー・ブラント政権期(1969-1974)において第三代連邦大統領(1969-1974)を務めたグスタフ・W・ハイネマン(1899-1976)に着目する。  
 連邦大統領としてハイネマンは、ドイツの歴史的事象に関わる多くの演説やラシュタットの「ドイツ史上の自由を求める運動」博物館の建設、歴史論文コンクール「グスタフ・ハイネマン賞」の創設等を通じて、特定の歴史的事象を国民の意識に浸透させようとした。その中心となったのは1848/49年革命の民衆運動であり、ハイネマンはここに連邦共和国の民主主義の起源を求めた。ハイネマンは連邦共和国の民主主義に対していかなる問題意識を持ち、こうした歴史的事象を引き合いに出すことで国民に何を伝えようとしたのか。さらに、ハイネマンの試みは同時代にいかなる期待と反発を受けたのか。
 以上の問題意識に基づき、本報告では、特定の歴史的事象に関する積極的な啓蒙活動を行ったハイネマン連邦大統領の意図とその主張内容、そして、同時代の反応について検討することで、ハイネマンの取り組みの意義を考察する。
 

 

* 今後の例会予定

11月 未定

12月 シンポジウム

発表のご希望は随時受け付けております。


第268回「歴史と人間」研究会

日時: 2019年7月13日(土)14時より 

場所: 一橋大学国立東キャンパス 第3研究館3階共用研究室

(キャンパス地図39番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html)

 

報告:  宜人

タイトル: 「厚生運動は歓喜力行団(KdF)の模倣か?―余暇をめぐる日独比較都市史―」

要旨: 

近年の日欧の都市史研究を比較すると、両大戦間期は計画性・機能性・合理性をメルクマールとする現代都市の原型が形成され局面であるということが共通認識となっている。本報告では、余暇のあり方を手がかりとして、両大戦間期の日欧においていかにして現代都市の共時的形成が可能となったのかを検証する。

両大戦間期には、1919年に国際労働機関(ILO)が18時間労働制を国際労働基準に設定したことを背景に、余暇に対する関心が国際的に共有されることとなった。1930年代に入ると各国で余暇の組織化が進み、特にナチス・ドイツの歓喜力行団(KdF: Kraft durch Freude)の提供する余暇プログラム(旅行・クルージング・ハイキング・各種スポーツなど)が国際的「模範」と目されることとなる。日本の各都市でも、幻に終わった1940年の東京オリンピック招致活動を機に、KdFをモデルとして、都市住民の「余暇善用」を通じた総力戦体制への社会的動員を目的とする厚生運動が組織された。本報告では、厚生運動の中心都市大阪の事例をKdFの中心都市ハンブルクと対比させつつ、KdF思想の導入を可能ならしめた契機と、厚生運動のなかで追及された日本の独自性のあり方を考察する。

 

* 今後の例会予定

9月:未定

10月:大下理世氏(詳細は決まり次第ご連絡いたします)

発表のご希望は随時受け付けております。

 


第267回「歴史と人間」研究会

日時: 2019年6月1日(土)14時より 

場所: 一橋大学国立東キャンパス第3研究館3階共用研究室

(キャンパス地図39番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

報告: ヤコビ 茉莉子

タイトル: 昭和前期日本における技術受容と災害―多目的ダムによる治水―

 

要旨: 

日本で現在、環境破壊の観点から問題視されているダムの本格的普及は、戦後の国土復興の一環としての治水を目的とする多目的ダムの受容によって促進された。第二次世界大戦直後、台風による災害が頻発するなか、その原因は戦時中の乱伐による国土の荒廃に求められた。その対策として、経済安定本部資源調査会はアメリカのテネシー・バレー・オーソリティー(通称TVA)に倣い、河川を総合的に開発し、洪水を防ぎながら資源(発電と利水)に変える「最良な策」として多目的ダムの建設を進めたのである。

しかし、ダムによる洪水対策が編み出された欧米と比較して谷が狭いため大きなダム湖が作れず、かつ雨量と土砂の堆積量が多い日本ではダムでは洪水が防げるかは疑問視され、外国からの治水技術を日本国土で受容することに対して小出博らが反対の声をあげたが、明治以来のオランダ流の治水では洪水は防ぎきれず、治山砂防で洪水対策を補ったように、戦後の総合的な治水もダムによる貯水と治山砂防による堆積物の減少との両面で進められていった。

本報告では明治以降の治水史を振り返った上で、海外河川で発祥した技術を「災害大国」日本でいかに応用するかという議論に焦点をあてて分析し、昭和前期に受容された多目的ダム思想の位置づけを見直したい。

 

※報告者の都合により報告は英語で行われますが(フルペーパー有り)、質疑応答は日本語で行います。


第266回「歴史と人間」研究会

日時: 2019年3月31日(日)14時より 

場所: 一橋大学国立西キャンパス職員集会所
 (キャンパス地図8番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

報告: 見市 雅俊氏

タイトル: 「マス・オブザベイションとイギリス的大衆社会の展開」

 

要旨: 

両大戦間期イギリスにおけるさまざまな知的トレンドのなかで、ひときわ異彩を放つのが「マス・オブザベイション(Mass Observation)」である。1930年代末、若き知的エリートたちが立ち上げたもので、一言でいえば、大衆自身が大衆社会を観察することをめざした社会運動である。実際には、たかだか二千人ほどの参加者をみたにすぎなかったのだが、当時は、いかにも当世風ということで、大きな関心を集めた。

MOは、1937年の国王戴冠式、1938年のミュンヘン危機、1939年の第二次世界大戦勃発等々の大きな出来事の際の、マスメディアの通り一遍の報道ではけっしてとらえることができない、大衆の反応を「人類学」的に、ないしは「社会学」的につぶさに観察し、記録し、活字化したのであった。また、パブでの酒の飲み方、観光地における余暇の過ごし方、プロレス観戦、サッカー籤、流行歌と踊りなどもその観察対象に入っていた。

戦時体制においては、MOは情報省の下請け機関として各種の調査をおこなったほか、ケインズの戦時課税政策の立案にも深く関与するなどして、総力戦の遂行に深く関わることになった。そして戦後は、MOの活動はマーケットリサーチに収斂してゆく。

このように多種多彩なMOの活動歴について、今回の報告は研究序説的な内容となる。MOの歴史をまとめ、そのうえで、特殊イギリス的な、「ほどよい近代」的な大衆社会の展開という観点から、MOの知的活動の軌跡を辿ることにする。


「歴史と人間」研究会2018年度シンポジウム(第265回例会)

2018年度 歴史と人間研究会シンポジウム(第265回例会)のお知らせ

 

シンポジウム:ピアノ文化の東西比較

 

日時: 2018年12月16日(日)13時30分〜17時30分

場所: 一橋大学東キャンパス第三研究館3階研究会議室
 (キャンパス地図39番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/index.html

プログラム:
趣旨説明(13:30-13:40)見市雅俊(中央大学名誉教授)

報告1(13:40-14:25)本間千尋(慶應義塾大学準訪問研究員)
「日本の一般の人々によるピアノ文化受容」
 
報告2(14:25-15:10)松本彰(新潟大学名誉教授)
「鍵盤楽器の社会文化史ー「音律の世界史」と西洋近代」
  
コメント(15:10-15:40)小野塚知二(東京大学教授)
休憩(15:40-16:00)
全体討論(16:00-17:30)

 

 「歴史と人間」研究会は、これまで年末にさまざまなテーマでシンポジウムを開催してまいりましたが、今回は、ピアノを取り上げることにしました。

 明治以来、私たちの国は、西洋文明のピンからキリまで輸入してきましたが、振り返ってみれば、それはただの舶来物の移入ということではありませんでした。「創造」的な移入であり、場合によっては「本場」をしのぐ発展をみることもありました。ピアノ文化も、この極東の島国において西洋以上の成熟をみているのかもしれません。最初の報告者、本間氏には、そのような日本におけるピアノ文化の受容と展開についてお話しいただきます。 

 つぎに、西洋音楽史の文脈でみれば、私たちが今日、目にするようなピアノには、実は、長い前史がありました。もう一人の報告者、松本氏には、ピアノ以前の音楽の舞台を煌びやかに彩った、さまざまな鍵盤楽器についてお話しいただきます。そこで提起される重要な観点は、音楽の「合理化」という特殊西洋的な現象であり、マックス・ヴェーバーの音楽社会学における調律(音律)論がご報告のベースとなります。

 このように、ピアノの歴史を辿ることによって、ユーラシア大陸の西端と東端における文化のありようを解き明かし、ひいては、「近代」という時代そのものを問い直す。それが今回のシンポジウムの主要なテーマとなります。多くの方が参加され、活発な議論が交わされることを期待しております。

 

本間千尋「現代日本のピアノ文化」

 18世紀末〜19世紀前期に西欧で登場したピアノ文化は,近代家族の象徴であった.息子や娘の理想的な在り方が求められ,女子教育とピアノが結びつき,子女のピアノ教育熱を煽り立てた.明治期にピアノ文化が移入された日本においても,戦前のピアノ文化は19世紀西欧のそれと類似している.ピアノは日本の良妻賢母教育と直結するものではないが,女子教育振興の過程で普及した.

 しかしながら戦後日本におけるピアノ文化は,戦前とは異なった様相を示した.日本人のライフスタイルが多様化したと言われるように,日本のピアノ文化も多様化した.その契機は高度経済成長期の「ヤマハ音楽教室」と,1980年代以降の「ピティナコンペティション」であり,現在の日本では,西欧以上に成熟した日本特有のピアノ文化が創造されている.加えてそうした背景には複雑に絡み合った階級,家族,教育,ジェンダー等に関する日本社会特有の事情が存在する.そのためこうした文脈においても検討しなければ,日本社会における真の意味でのピアノ文化の様相を明らかにすることは不可能である.言い換えれば,日本社会を考察する一つの切り口がピアノ文化とも言える.ピアノ文化を通して日本社会の特質を垣間見ることが可能なのである.本報告では,戦後日本のピアノ文化に生じた,あるいは現在生じている様々な問題や,ピアノ文化が持つ潜在的な意味を把握し,現代日本のピアノ文化を多側面から考察する.

 

松本彰「鍵盤楽器の社会文化史―「音律の世界史」と西洋近代」

 ヨーロッパでは、ピアノ以前に長い鍵盤楽器音楽の歴史があった。1400年ごろにオルガン、チェンバロ、クラヴィコードという三つの鍵盤楽器が成立し、豊かな伝統を蓄積していた。ピアノは1700年ごろ発明されたが、現在のような鋳鉄の枠にピアノ線と呼ばれる鋼鉄線を張った工場生産された楽器(モダンピアノ)が成立したのは、産業革命による技術革新の後、19世紀半ばだった。

モダンピアノの歴史は150年、ピアノの歴史は300年、鍵盤楽器音楽の歴史は600年ということになる。18世紀は、四種類の鍵盤楽器が「クラヴィーア」とされ、並行して用いられていた「鍵盤楽器音楽の黄金時代」だった。

鍵盤楽器の歴史を考える上で重要な論点の一つは、鍵盤楽器の整律=調律法(音律)の歴史である。マックス・ヴェーバー『音楽社会学』は、その歴史を「西洋に特殊な合理化」として問題にし、詳細な分析を行った。

 20世紀後半には古楽器(オリジナル楽器)による演奏が盛んになり、実際の演奏で歴史的音律が用いられ、「音律の世界史」が問題とされている。

ヨーロッパの長い、多様な鍵盤楽器の歴史、そして古楽器演奏の現在を紹介し、ほぼ100年前のヴェーバーの問題提起の意味を問い、議論の糸口としたい。


 

◇忘年会のご案内◇
シンポジウムの後は、恒例の「大忘年会」となりますが、今年は趣向を変えて、国立ならではのお洒落なお店で催すことにしました。
どうぞ、こちらにも奮ってご参加ください。
時間:18時〜20時 場所:AZ DINING ピッツェリア国立店
会費:3000円(学生2000円)

 

* 次回の例会は3月、見市雅俊氏によるご報告の予定です。詳細が決まり次第、改めてご案内申し上げます。


第264回「歴史と人間」研究会

日時: 2018年11月17日(土)14時より *土曜日ですのでご注意ください。

場所: 一橋大学国立西キャンパス職員集会所
 (キャンパス地図8番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

報告: 田村 俊行氏

タイトル: 「19世紀後半イングランドにおけるヴォランタリズムと国家―聖バーソロミュー病院の経営戦略」

 

要旨: 

 本報告は、チャリティ団体である聖バーソロミュー病院を事例に、ヴォランタリズムと国家の関係について検討するものである。「ヴォランタリズム」(voluntar[y]ism)とは、オクスフォード英語辞典によると、国家による強制ではない自発的な行為や原則に依存する仕組みを意味する。福祉国家における非営利民間セクターの重要性を説いたウィリアム・ベヴァリッジは『ヴォランタリ・アクション』の中で、「国家権力を行使する何らかの当局の指示によるものではない」行為と位置づけた。このように、「ヴォランタリズム」という言葉には、国家に対置しうる別の主体性が内包されていることが分かる。
 しかし近年の研究ではむしろ、ヴォランタリズムと国家との関係に関心が寄せられている。ヴィクトリア時代のイギリスは「小さな政府」、すなわち国が果たす役割を最小限に抑える傾向にあった。同時に、国や行政機関はヴォランタリの諸力が織りなす公益の実現に期待を寄せており、またチャリティ団体のほうも、公的な支援や対策の行き届かない領域をカバーするようにヴォランタリズムを展開していた。近年の研究は、こうしたあり方に、補完、依存、さらには浸食といった関係性を見出している(金澤周作『チャリティとイギリス近代』〔京都大学学術出版会、2008年〕、高田実「ヴォランタリな社会としてのヴィクトリア朝―イギリス的自由の歴史的展開―」『ヴィクトリア朝文化研究』〔第12号、2014年、28〜36頁〕)。同時代のヴォランタリズムを捉えようとするとき、国家とどのような関係を取り結んでいたのかがひとつの重要な視座となっているのである。
 こうした問題関心にもとづき、本報告はケント州メドウェイ川沿いの町ロチェスターを拠点に活動した聖バーソロミュー病院を具体例として取りあげる。その際に着目するのは、病院敷地内に設置された性病棟である。性病患者用の病棟を併設していること自体当時のチャリティ病院としては珍しいことであるのだが、本報告がとくに関心を寄せるのは、この性病棟が、1863年から1870年までのあいだ陸軍省に貸し出されており、軍の性病対策として活用されていたという点である。この、性病棟によって結ばれるチャリティ病院と国家とのあいだにあった関係とはどのようなものだったのか。また、そもそもなぜ1863年から1870年という期間に貸借がおこなわれたのか。
 以上のことを明らかにするために、本報告では、病院関係者と軍関係者とのあいだで交わされていた書簡や病院の財務記録を主な史料として利用する。そしてその検討から、単純な相互依存関係には収まらない、国家とヴォランタリズムのあいだで巧みに立ち回るチャリティ病院の姿を指摘したい。

 

* 次回は12月16日(日)、鍵盤楽器・ピアノの歴史に関するシンポジウムを開催します。 

  本間千尋氏、松本彰氏、小野塚知二氏に御登壇頂きます。詳細が決まり次第、ご案内申し上げます。

  シンポジウム後には忘年会を行います。ぜひご参加ください。


第263回「歴史と人間」研究会

日時: 2018年10月27日(土)14時より *土曜日ですのでご注意ください。

場所: 一橋大学国立東キャンパス第3研究館3階共用会議室 ※通常とは異なりますのでご注意ください。
 (キャンパス地図39番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

報告: 東風谷 太一氏

タイトル: 「ビールによって生きること――19世紀前半ミュンヒェンの醸造業と民衆」

 

要旨: 

 本報告は、1844年にバイエルン王国の王都ミュンヒェンで起きた「ビール騒擾」の背景を考察する。先行研究ではこの事件は、「18世紀イギリスの食糧暴動のような、『公正な価格』をめぐる前工業化時代の民衆蜂起」の一種と位置づけられてきた (W. Behringer, Die Spaten-Brauerei, 1397-1997. Die Geschichte eines Münchner Unternehmers vom Mittelalter bis zur Gegenwart, München 1997, p.176)。
確かにドイツ地域の19世紀前半とは「大衆的貧窮」と呼ばれる経済不況の中、各地で食糧騒擾が頻発した時期である。そして、バイエルンに限らずともビールは広範な社会階層の人々から「食糧」と受け止められており、事件の前後にミュンヒェンではビール価格が大幅に上昇していたことも確認できる。ところが、あらためて事件を整理してみると、群衆がビール醸造所ばかりを集中的に襲撃したという選択性の要因が明らかにされていないことがわかる。
当時価格が高騰していたのはパンや穀物も同様だったのにパン屋や穀物商はほとんど騒擾の標的とはならず、他方、醸造所同様にビールを扱う酒場についても、ほぼ被害を蒙らなかったのはなぜか。パン同様にビールも価格公定制度の対象であり、ビール価格を一切操作しえなかったという点では酒場も醸造所も変わらなかった――しかも酒場の方がビールを高く販売していたにもかかわらず、醸造所だけが過激な破壊行為の対象となったのはなぜか。本報告ではこうした問いに、都市においてビールを飲むことの意味とビールを造ることの意味というふたつの側面からの考察を通じて応答を試みる。そこから見えてくるのは、近代私有制と市場経済の浸透に伴う都市・醸造業・民衆三者間の社会文化的関係性の具体的な変容過程である。用いる史料は、主にバイエルン王国内務省の警察・裁判資料、ミュンヒェンの営業関係資料および同時代新聞等とする。

 

* 次回は11月17日(土)、田村俊行氏によるご報告の予定です。詳細が決まり次第、改めてご案内申し上げます。



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