第233回「歴史と人間」研究会

日時: 2015年3月15日(日)14時より

場所: 一橋大学西キャンパス職員集会所
(キャンパス地図7番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/campus/campus/index.html

報告: 長谷川 貴彦氏
タイトル: 「グローバル時代の歴史学を考える―ポスト転回の位相―」

要旨:
 グローバル時代に求められる歴史叙述とは、どのようなものなのだろうか。多くの歴史家は、現実の動きに翻弄されがちで、その方向性を見定めることは極めて難しくなっている。だが、そうした問いに対するヒントを与えてくれる書物が刊行された。まさに『グローバル時代の歴史叙述』(Writing History in the Global Era, New York : W.W. Norton, 2014)という題名をもつ、リン・ハントの著作である。ハントの背景にあるアメリカ歴史学界は、いわゆる「転回」を牽引して現代歴史学の中心に位置する。ここでの「転回」とは、1970年代以降に生じてきた、言語論的転回、文化論的転回、空間論的転回などの従来の歴史記述に対する再考の動き全体を指すもので、歴史叙述の構築性、文化史の台頭、個人史(主体)の復権、国民国家の相対化など、私たちが目にしてきた現代歴史学の諸主題は、全てこの「転回」の一環と見なすことができる。
 ハントによれば、現代歴史学の状況は、既存の4つパラダイム(マルクス主義、近代化論、アナール学派、アイデンティティ・ポリティクス)を批判してきた文化理論に基づく歴史学(文化論的転回)が活力を喪失しており、有効なパラダイムとしての代案を提示できないままに、トップダウン型のグローバル・ヒストリーだけが「大きな物語」の座を独占することになっているという。これに対して、ハントは「下からの(ボトムアップな)」グローバル・ヒストリーを提唱しており、それは「個人(主体)の復権」という現象とも共鳴するもので、「自己と社会」との関係の再検討が課題として提出される。この「自己」の再定義の試みは、「言語論的転回の最大の成果が個人に対する認識の深化」であり、「認知科学や脳科学こそが、歴史学が協力関係を取り結ぶべき隣接分野」という言明とも共振するものとなる。
 実際、日本の歴史学は、アメリカの知的世界と対話をしながら、独自の歴史認識を形成してきた。かつて丸山真男は、近代化過程における宗教倫理の役割をめぐり、プロテスタンティズムと儒教の差異を強調してロバート・ベラーと論争を行った。最近では、アンドルー・ゴードンが日本と欧米の近代化との同型性を探ろうとしたのに対して、中村政則は質的な差異を強調している。二つの「論争」に共通するのは、「近代」をめぐるアメリカ流の認識と日本の特殊性に立脚する歴史認識との差異である。この報告では、社会史から言語論的転回への史学史上の転換に関するみずからの研究のアウトラインを提示しつつ、アメリカ歴史学の全体像を伝えるハントの著書の批判的検討を通じて、グローバル時代の日本における歴史学のあり方を考える素材を提供したいと思う。
 

* 次回は4月25日(土)、森村敏己氏によるご報告の予定です。



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