第264回「歴史と人間」研究会

日時: 2018年11月17日(土)14時より *土曜日ですのでご注意ください。

場所: 一橋大学国立西キャンパス職員集会所
 (キャンパス地図8番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

報告: 田村 俊行氏

タイトル: 「19世紀後半イングランドにおけるヴォランタリズムと国家―聖バーソロミュー病院の経営戦略」

 

要旨: 

 本報告は、チャリティ団体である聖バーソロミュー病院を事例に、ヴォランタリズムと国家の関係について検討するものである。「ヴォランタリズム」(voluntar[y]ism)とは、オクスフォード英語辞典によると、国家による強制ではない自発的な行為や原則に依存する仕組みを意味する。福祉国家における非営利民間セクターの重要性を説いたウィリアム・ベヴァリッジは『ヴォランタリ・アクション』の中で、「国家権力を行使する何らかの当局の指示によるものではない」行為と位置づけた。このように、「ヴォランタリズム」という言葉には、国家に対置しうる別の主体性が内包されていることが分かる。
 しかし近年の研究ではむしろ、ヴォランタリズムと国家との関係に関心が寄せられている。ヴィクトリア時代のイギリスは「小さな政府」、すなわち国が果たす役割を最小限に抑える傾向にあった。同時に、国や行政機関はヴォランタリの諸力が織りなす公益の実現に期待を寄せており、またチャリティ団体のほうも、公的な支援や対策の行き届かない領域をカバーするようにヴォランタリズムを展開していた。近年の研究は、こうしたあり方に、補完、依存、さらには浸食といった関係性を見出している(金澤周作『チャリティとイギリス近代』〔京都大学学術出版会、2008年〕、高田実「ヴォランタリな社会としてのヴィクトリア朝―イギリス的自由の歴史的展開―」『ヴィクトリア朝文化研究』〔第12号、2014年、28〜36頁〕)。同時代のヴォランタリズムを捉えようとするとき、国家とどのような関係を取り結んでいたのかがひとつの重要な視座となっているのである。
 こうした問題関心にもとづき、本報告はケント州メドウェイ川沿いの町ロチェスターを拠点に活動した聖バーソロミュー病院を具体例として取りあげる。その際に着目するのは、病院敷地内に設置された性病棟である。性病患者用の病棟を併設していること自体当時のチャリティ病院としては珍しいことであるのだが、本報告がとくに関心を寄せるのは、この性病棟が、1863年から1870年までのあいだ陸軍省に貸し出されており、軍の性病対策として活用されていたという点である。この、性病棟によって結ばれるチャリティ病院と国家とのあいだにあった関係とはどのようなものだったのか。また、そもそもなぜ1863年から1870年という期間に貸借がおこなわれたのか。
 以上のことを明らかにするために、本報告では、病院関係者と軍関係者とのあいだで交わされていた書簡や病院の財務記録を主な史料として利用する。そしてその検討から、単純な相互依存関係には収まらない、国家とヴォランタリズムのあいだで巧みに立ち回るチャリティ病院の姿を指摘したい。

 

* 次回は12月16日(日)、鍵盤楽器・ピアノの歴史に関するシンポジウムを開催します。 

  本間千尋氏、松本彰氏、小野塚知二氏に御登壇頂きます。詳細が決まり次第、ご案内申し上げます。

  シンポジウム後には忘年会を行います。ぜひご参加ください。



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<2018年>
11月17日 田村俊行氏
12月16日 シンポジウム・忘年会
3月    見市雅俊氏

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