第262回「歴史と人間」研究会

日時: 2018年9月22日(土)14時より *土曜日ですのでご注意ください。

場所: 一橋大学国立西キャンパス職員集会所
 (キャンパス地図8番 http://www.hit-u.ac.jp/guide/ campus/campus/index.html

報告: 大和久 悌一郎氏

タイトル: 「労働・生理学・戦時動員—H.M.ヴァーノンの見た第一次大戦期のイギリス」

 

要旨: 

 H.M.ヴァーノンは1870年に生まれた医師、生理学者で、1889年にはオックスフォード大学のフェローとして海洋生物の研究を専門としていたが、第一次世界大戦がはじまって翌年の1915年の夏休みに軍需工場での志願労働に従事したさい、そこでの長時間労働制の体験から当時の工場労働のあり方に疑問を抱き、以後、ヴァーノンは工場労働における疲労と身体健康維持にかんする研究に着手、軍需省労働者健康委員会に参加して政策提言などの報告書を複数作成した。その実績を買われて戦後においてヴァーノンは、さらに再建省での労働問題にかんする研究を指揮しており、そこでの成果はイギリスにおける労働生理学の基礎として知られることとなった。
 本報告は、こうしたヴァーノンの活動について、とくにこれまでほとんど注目されることのなかった第一次大戦期の軍需省での活動について検討し、またそれを通してイギリスにおける大戦期の動員体制の性格についての議論を試みるものである。

 本報告の関心は、第一次大戦期のイギリスをめぐる研究、とりわけ銃後の労働をめぐる社会史の研究にもとづいている。社会史では1960年代にA.マーウィックやA.J.P.テイラーらによる総力戦体制の検討から始められ、80年代にはウィンターらによるジェンダー及び医学・医療史の観点からの検討も進み、さらに2000年代以降は産業医療や労働者間の共同体意識を問う「作業の社会史」へと対象を広げてきた。そこでは労働希釈による女性の社会進出や経済上昇の一方で、軍需品の大量生産のための生産体制の転換や、また近年では、事故や薬品中毒など作業面での身体への悪影響も取り上げられるなど、社会のみならず産業経済から個々人の身体面まで戦争の影響が見られたことが指摘されている。
 本報告もまたそうした関心に沿うものであり、ヴァーノンの残した報告書から、戦時下における労働の状態について、また政府による介入の形態とその影響について見ていきたい。とりわけヴァーノンはすでにふれたように生理学者であり、その報告書には、疲労と生産量の相関にかんする2年間以上にわたる詳細な統計調査など、軍需工場労働者の身体面に関する生理学的な関心からの検討が含まれている。一方で政策提言としては労働管理法として、いわゆる「科学的管理」の積極的な援用も試みており、実際、大戦期のイギリスは当時アメリカで勃興していたテイラー主義の導入について、その導入の是非がB.S.ラウントリらによって積極的に議論されていた時期にあたり、ヴァーノンもまたそうした労務管理の理想的な導入を模索していた。他方、その内容では、戦時下の動員について長時間労働による疲労の状況や、作業中に頻発する非熟練労働者の負傷について、また労働力の流入により都市内に発生した混雑状況など、生活面を含む調査報告書を残しており、動員によって急速に変化した労働の状況をそこに見ることができる。いわばその報告書は、戦時下での劣悪な状態を目撃しながらも理想的な管理法を素描しようとした、この生理学者の見た現実と理想の記録にほかならない。

 本報告はこうした戦時下におけるヴァーノンの活動について、まずその経歴を見たのち、軍需省での報告書を主な史料として、戦時下の労働者の身体的状況および生活状況について、ついで、そこに提示された労務管理論を検討し、それを通じて、第一次世界大戦期イギリスの労働の状況と、戦時動員体制の性格を論じていきたい。

 

 

* 次回は10月27日(土)、東風谷太一氏によるご報告の予定です。詳細が決まり次第、改めてご案内申し上げます。



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